令和6年5月20日~文部科学省より委託をうけ実施した表題の取組について、報告レポートを掲載します。
- わたしたちが本委託事業で目指したい生涯学習機会拡大のビジョン
- 障がい者が多様な人と共に学ぶ生涯学習機会を生み出し、社会の当たり前にすること
- 共創と共生が活きたインクルーシブな街づくり・人創りに活かされること
生涯学習とは、単なる知識の習得ではなく、それを通じて生きることそのものを豊かに変える体験行動です。障がい者の生涯学習機会も、障がいが有ろうとも、健常者と同じように、自分の学びの意欲を様々に試すことができる「①選択肢」が「②数多く」あり、それらは「③身近な地域のなか」にあって「④気軽に」通え、「⑤継続的」に存在することが理想です。
わたしたちASOBIが取り組む生涯学習機会づくりは冒頭の2つのビジョンと①~⑤の実現を最終目標に定め、本委託事業を活用しています。とくに健常者にとっては当たり前の“身近なところ”に“選択肢の多様さ”を且つ“持続的に用意”することは、障がい者のみを対象とした場合、すぐには困難です。そこでわたしたちは、健常者が利用している既存の生涯学習の場をみんなで共有する、つまり、健常者と障がいのある人が「学びの時間と環境を共有する」ことを地域のスタンダードに変えることが必要だと考えました。
生涯学習の場を創る担い手候補の大多数は健常者です。しかし多くの健常者は障害に対して「漠然とした不安」を持っています。要因のひとつは、障がいのある人と一緒に活動をしたことがないコミュニケーションの経験不足です。身近に障がい者がいなかったこと(あるいは本当はいるのだが見えていなかった)、相互理解を深めるほどの密な機会がなかったことなどが、心の障壁や気付きの欠如を生んでいます。まずこの障壁を取り除かなければ①~⑤の実現のスタートラインに立てません。
本事業は「まぜこぜスポーツまるシェ」というスポーツイベントを健常者と障がい者が一緒に創ることで、相互理解を深め、個々が持つ「自分らしさ」とは何かを知り尊重し、力を重ね合いながら、だれもが参加できる生涯学習機会を創る“実践の学び場”です。事業推進をする私たちも、実践から地域実装に向けた課題を知り得ています。
わたしたちのプログラムは、特化型の学習プログラムの開発ではありません。障がい者の生涯学習機会拡大・持続化の担い手となる「人を創る」学習プログラムです。障がい者と共に活動を重ねた経験値が土台・自信となり、やがて障がい特性や成長ニーズに応じた“学びの深化”に取り組む指導者や主催者や支援者を生むものです。ひいてはインクルーシブな未来を創る人の輪が広がっていくことが期待されます。
- なぜスポーツを生涯学習に選んだのか
1. 心が動くと、人は動く
スポーツには挑戦や成長だけでなく、楽しさや笑い、喜び、人との出会いや協力など、心を揺さぶるシーンが多く存在します。同じ体験や感情の共有は、心の障壁を融解し、新たな人間関係の構築へと繋がります。
健常者にとっては、これまで知らなかった(=気付いていなかった)障がい者の様々な困りごとを“自分事”として捉えるきっかけとなり、仲間(=障がい者)のためにより良い環境を創ろうとする行動変容に繋がります。
障がい者にとっても、多様な人間関係の協働のなかで自己肯定感を高め、“支援される側”という存在認識ではなく、自分なりの力を尽くして社会をより良く変えていく当事者として能動的に行動する支え(仲間=健常者)を得ることに繋がります。
2. 「スポーツが人に合わせる」思考への転換
「人がスポーツに合わせる」仕組みでは、既存の枠組みの中に収まらない人は零れ落ちていきます。また多くの人は、それを仕方がないことと認識してきました。
一方「スポーツが人に合わせる」思考では、こうあるべきだという固定概念に捉われることなく、目の前にいる個々が持つ力を活かそうとする指導方法や手法に視点が切り替わります。これは、障がい者だけでなく健常者にとっても、自分らしい成長ができる環境です。スポーツは、上記1の感情の共有を伴いながら、2のマインドシフトの実践を行うのに適しています。
- まぜこぜスポーツまるシェとは
障がいの有無に関係なく、みんなとスポーツの楽しさを共有することを目指したイベントです。企画運営に参加するメンバーは、ハンディキャップが有る人も無い人も一緒に楽しめることを想定しながら、さまざまなスポーツやあそびを考案し実践します。イベント参加者はマルシェのように自分のやってみたいものを選んで楽しむことができます。“自分で選べる”ことは障がい者にとって大切な要素です。しかし、全ての障がい種や特性に対応できる用意ができているわけではありません。スタッフは、その場で参加者のニーズを聞きながら必要なサポートや、ルールや道具のアダプテーションを試みます。「どうすればできるだろうか」「本人はどうやりたいと思っているのだろうか」を汲み取り、スポーツの側を変幻に変えていきます。この経験は、障がい特性を学ぶ実践にもなっています。イベント名は、お互いのちがいを「まる」と捉えて「シェアする」というASOBIの理念を込めて「まるシェ」と名付けています。
- 本年度の取組
令和5年度(1年目)は、心の障壁を取り除くことをテーマとして、座学や実践(まぜこぜスポーツまるシェの開催)に取り組みました。取組後に見えてきた課題について、令和6年度(2年目)は以下3つのテーマに取り組みました。
1. 障がい理解をさらに深めること 『聖隷福祉事業団 浜松学園との協働』
昨年度は、企画運営メンバーに身体障がい当事者の参画がありましたが、知的障がい者はいませんでした。多様な障がい種への理解を深めるため、知的障がい者の生活・就労訓練施設「社会福祉法人聖隷福祉事業団 浜松学園」にご協力いただき、利用者(寮生)の皆さんと協働企画で「まぜこぜスポーツまるシェinハマガク」を開催しました。
2. 教育現場への取組導入を模索 『浜松学芸中学・高等学校との協働』
障がい理解は単発ではなく、「①密度の高い関わり」と「②経験の積み重ね」によって醸成されます。授業でも福祉やDE&Iについて学びますが、実践の機会がなければ実感は伴わず、自分事にまで至りません。理想は、小学校・中学校・高校の各在学中に障がいの有る人と協働する機会があることや、かつ多年代で協働してノウハウを後輩に伝える機会を持つことですが、企画段階において近隣の公立中学校・市立高校へ協働を打診したものの、今思えば当然ながら、学校として取り組むには様々な問題があり困難でした。
そこで、私立である「学校法人信愛学園 浜松学芸中学・高等学校」にご協力いただき、中学生・高校生との協働企画「まぜこぜスポーツまるシェin浜松学芸」の実現に至りました。
3. 取組のもたらす効果や影響を明確にする 『聖隷クリストファー大学との調査協力』
本取組がもたらす影響についての調査は初年度終了時の課題のひとつでした。アンケート調査(筆記やGoogleフォーム入力)を実施したものの、イベントの事前申込が不要で参加時間も自由設定であることや、障害によってアンケート回答が困難なかたが多いことなどから回答率が著しく低い状況であったためです。ボランティアスタッフについても、参加したことで障害やインクルーシブへの理解促進の一助を担っている実感はあるものの、明確なエビデンスを示すデータの収集には至らず、また心理的変化は数値だけで測ることが困難でした。そこで、以前より学生のボランティア参加でご協力いただいていた聖隷クリストファー大学リハビリテーション学部作業療法学科の藤田さより准教授にお力添えいただき、本取組がもたらす影響について明らかにする調査を担当していただくこととなり、現在も進行中です。
[補足]受動的な参加からのスタート・小規模会場での開催
初年度は、取組に賛同し自ら申込をして参集したメンバーが核となり、座学などの学びも取り入れながらイベントの企画運営がなされました。しかし本年度は、施設長や学校長の判断において取組が決定し、参加する利用者や生徒達は受動的なスタンスからのスタートとなりました。また実施会場も、初年度は市内で最も大きい会場(浜松アリーナ)を用いたためバリアフリーで空調設備なども整っており、スポーツ備品も充実した環境でしたが、本年度は小さな体育館での開催となりました。この経験は、今後、地域の協働センター・公民館の生涯学習講座での実装を考える上で生きるものとなりました。
- 具体的な取り組み内容については以下のレポートをご覧ください。
今後とも、ASOBIの活動へのご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。